インフェルノ

目覚めたら病院のベッドの上。
頭部に銃槍。

「貴方は襲われたんです」

そこに至る一切の記憶は無い。
断片的に思い出せるのはダンテ作「神曲」の恐ろしい地獄の一場面。
間もなく再び襲撃に遭い、目の前で医師が殺されーー


分かり易いのにスピード感が有って唸る。
光景がありありと浮かび上がる。
舞台はイタリア・フィレンツェ
頭に傷を負い、直近の記憶を失ったラングドン教授は“ふつうの人間”になりたいと願う謎めいた美女とパンデミックを阻止する為、謎の追手から逃げ惑いつつダンテの地獄編に絡められた謎を解き明かしてゆく。

“自分は欠陥品”と嘆くシエナ
“生きるために嘘をついてきた”総監。

それぞれが自分の信じる道を進んだ結果が顕わになる。
『答えが欲しいから』人は人を追い求める。
ラングドンシエナを追うように。
その答えはヨハネ福音書の中で神の言葉として書かれている。
“言葉は肉体となり、我々の中に宿っている”と。
言葉は人そのものだ。
人がどう生きてどう死ぬか。その全てが神のあらわす“言葉”である。

自らを偽り続ける登場人物達の中にあって、ラングドン教授の真実を追い求める鋭い眼光は印象的。
物語の終わりはダンテの古い格言で締め括られる。

「今宵を忘れるな。永遠の始まりなのだから」

いつ何時、自分にその瞬間が訪れるか分からない。
永遠の始まりはいつでも自分で見つけられる。
―――自分を偽りさえしなければ。

神の祝福に満ちた世界は、どんな出来事がその人に起ころうと続いてゆく。人が考えることなんて、予め分かっているよとでも言われているようだ。
本を読む度、そう強く思う。

インフェルノ(上) (角川文庫)

インフェルノ(上) (角川文庫)